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挿入無しのぬるい性描写がありますので苦手な人は注意。
多摩川が池上の部屋で一緒に映画を観るようになったのはここ最近の事である。最初は多摩川がリクエストする話題作を観ていたが、だんだんと池上の部屋に置いてある映画を観るようになっていた。多摩川も映画を観るのは嫌いではないが、淡々とした日常が描かれた古い映画ばかり観るのはさすがに飽き始めていた。
今日も池上は大量に映画のDVDが並ぶ棚を一瞥し、そのうちの一本を手に取る。ケースの中からディスクを取り出してプレイヤーにセットし映し出された映像は不思議と一度観たことのあるものだった。妻に先立たれ子供と暮らす初老のサラリーマンと嫁いで行く娘の話。進んでいく内容を追ってみても、わざわざ多摩川が好んで観るような映画ではない。だが間違いなく観ているという記憶。
「これを観に行った時、雨が降ってたよな」
不意の言葉に画面に釘付けになっていた池上は隣に座っている多摩川の顔を見る。
「そうです、あの日は朝からずっと雨が降っていました」
「観終わった後、映画に出ていたように2人でトリスバーに飲みに行った。それがウナギの寝床みたいな狭い店でさ」
「たまたま空いていたカウンターの一番奥に座ったんでしたね」
その時の店はどこにあるのか、そこで何を頼んだか、全てを鮮明に思い浮かべることが出来た。多摩川が経験出来るはずのない出来事。なぜ自分の中に自分以外の記憶があるのか、考え付く結論は一つしかなかった。
「これってもしかして兄貴の記憶?」
多摩川の言葉に池上はうつむく。
「…そうだと思います。まだ目蒲と呼ばれていた頃の目黒さんと一緒に観に行きましたから」
多摩川線は元は目蒲線の一部なのだからもし記憶が残っていたとしても不思議ではない。今まで何度か同じ事を繰り返していた多摩川にとっては原因が分かって安心出来たくらいである。だが一つ気がかりなことがあった。それは目黒がその時に感じていた池上に対しての気持ち。それが目黒の本当の感情だとしたら、兄弟揃って同じ人物に同じ感情を抱いていることになる。
『それがどうした、 俺は兄貴じゃない』
「池上」
多摩川は池上の腕を掴む。恐れるものなど何もあるはずがなかった。
多摩川に腕を掴まれたまま、池上は多摩川の目を見る。多摩川が自分に対してどういう感情を抱いているかは池上も薄々は気が付いていたが、まるで弟のような相手のことをそんなふうに考えるのは浅ましいとあえて目を逸らし続けていた。だが同時に、いつかこんな日が来るのではないかという思いも少なからずあった。
多摩川は池上の腕を離すと、そのまま体を引き寄せて抱き締める。
「多摩川君」
池上の呼びかけに微かに不安そうな顔をする多摩川を見て、池上は多摩川の唇に唇を軽く重ねた。池上のその行動によって多摩川の迷いは全て消え失せ、池上の頭を手で押さえて角度を変えて深く唇を重ねていく。
唇と体を離し、自分のジャケットに手を掛け脱ごうとする池上を多摩川の言葉が遮る。
「俺が脱がすからそのままで」
その言葉に池上の顔が赤くなるのも構わずに、多摩川は池上をソファに押し倒すと馬乗りのまま器用にベルトを外しファスナーを下ろす。下着の上から手で陰部を刺激すると段々と勃ち上がってくるのが感じとれた。下着ごとズボンを下ろし直接刺激していく。陰茎は反応を示すが、本人が感じているのかいまいち反応がない。多摩川が池上の顔を見ると、目を瞑り声を上げるのを堪えているのが分かった。
「なぁ、池上、声聞かせて」
耳元で囁くように言葉をかけ耳朶を甘く噛むと、耐え切れなくなった池上は声を上げる。それに気をよくした多摩川は池上のネクタイとワイシャツの首元を緩めて、首筋に舌を這わせていく。一段と手の刺激を強めると、多摩川の手の中で池上自身が果てた。
池上は上半身を起こし呼吸を整えると、もう一度唇を重ねる。触れる程度の優しいキスだった。2、3度繰り返し、今度は池上が多摩川の下半身に手を伸ばす。ベルトを外しどこが一番感じるのか知り尽くしたかのように手を動かしていく。ふと、池上の目の前で荒々しく呼吸する多摩川に目黒の顔が重なる。いつまでも畏怖の念を抱く相手。どれだけ同じ時を過ごしても、身体を重ねても、一度抱いた恐怖という感情は消え去ることはなく心の中でくすぶり続けていた。
やがて限界を迎えた多摩川の頬に池上はキスを落とす。
「喉が渇きませんか?」
「少し」
「何か持ってきますね」
飲み物を取りに行こうと腰を上げた池上に多摩川は後ろから抱きつく。その多摩川の行為に池上は微笑みながらソファに腰を落とす。
「もう少しこのままでいましょうか」
多摩川が眠りにつくまで、池上は多摩川の髪を撫で続けていた。