2009/06/03 (Wed) 02:23:20 煙草

スイカと東日本。短い話。

載せる時期を逃したもの。

　それは2009年3月31日の事。
「とうとう明日から首都圏の駅の禁煙が開始されますね」
今日一日の業務報告を終えたスイカは資料をまとめると椅子に座ったままのJR東日本に話かける。
「まだ首都圏226駅だけだが、いずれは日本全駅禁煙となるだろう」
東日本が机から煙草ケースを取り出すと、スイカは慣れた手つきでライターの火を点ける。しばらくすると、今まで無煙だった部屋に紫煙が揺らめいた。
　スイカは手元のライターへと視線を落とす。
「明日からマスターからお借りしたこのライターはどうすれはよろしいでしょうか」
「そのライターは君が使うといい」
「残念ですが、頂いても使い道がありません。私がライターを使うのはマスターが煙草を嗜む時だけと決めてましたから」
スイカのその言葉に満足したのか、東日本は立ち上がり今まで机の上に置いていた煙草ケースをスイカに手渡す。
「これは君の手で破棄してくれ」
「よろしいのですか」
「これを持ってると、思わず吸ってしまいそうになるからな」
スイカはお辞儀をし、東日本の部屋を出て行く。
　『これから先、こっそり青森あたりで吸ってないといいんですがね』
扉の外、そんな事を思いながらスイカはJRのマークの入った煙草ケースを眺めていた。